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福岡地方裁判所 昭和32年(行)21号 判決

原告 八幡市信用金庫

被告 福岡国税局長

訴訟代理人 小林定人 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和三十二年八月二十二日、原告の昭和三十年四月一日より同三十一年三月三十一日迄の事業年度法人税課税標準額に対してなした審査決定中、金二千七百四十六万六千七百六十九円を超える部分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。

(一)  訴外八幡税務署長は昭和三十二年二月二十七日、原告の昭和三十年四月一日より同三十一年三月三十一日迄の事業年度の課税標準額を金二千七百七十六万五千百円と更正し、右通知は同年三月一日原告に到達した。

(二)  そして、右標準額は(1)雑収漏金三万七千百二十四円(未払配当金八千二百八十四円、不動口預金二万八千八百四十円)(2)負債利息金七万千二百三十一円(3)役員賞与金二十五万円を益金に算入して所得金額と決定したものである。

(三)  しかし、前項の(1)ないし(3)の金額は益金に算入すべきものではなく、殊に(3)の金額は損金に算入さるべきものであり、これを益金に算入して法人税課税標準額とすることは違法不当であるから原告は昭和三十二年三月十一日被告に対し審査請求をしたところ、被告は同年八月二十二日八幡税務署長のなした原決定のうち前項(1)の雑収漏中三万七千百円を取消し、課税標準額を二千七百七十二万八千円とする旨の審査決定をし、右通知は同年八月二十四日原告に到達した。

(四)  しかしながら、被告のなした審査決定はなお第二項の(2)の負債利息金(3)の役員賞与金合計三十二万千二百三十一円を益金として所得に算入することを認めたものであつて、原決定を取消さなかつた違法があるから、本訴においてその取消を求める。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として次のように述べた。

原告主張の請求原因事実中(一)、(二)の事実及び(三)の事実のうち原告がその主張の日に原告主張のような理由で審査請求をし、被告がその主張の日に原告主張のような内容の審査決定をし、右通知が原告主張の頃原告に到達したことは認めるが、その余の事実は否認する。被告が本件審査決定において負債利息金七万千二百三十一円並びに役員賞与金二十五万円を益金に算入することを認めたのは以下に述べるとおり適法であるから、本件審査決定の取消を求める原告の本訴請求は理由がない。

(一)  負債利息金を益金に算入したことについて。

(1)  法人の所得の計算上、当該法人が内国法人から受ける配当等は、法人を通じて株式を所有する者に対して二重の課税を避ける為に、原則としてこれを益金に算入しないのであるが、その益金に算入しない金額については当該配当又は収益の元本である株式を取得するに要した負債の利子であるときは、当該金額からこれを控除した額による旨法定されている。これは利子附負債によつて株式等を取得した場合、全額を益金に算入しないこととすると、一方では、利子も損金に算入されることから、他の利益にその分だけ喰込み課税利益を少くするからである。

しかしながら、原告のように銀行業務を行う金融機関である法人にあつては、株式等を取得した場合に自己資本によつたものであるか利子附負債によつたものであるか判然としないのである。何故ならば、これ等の法人にあつては自己資本はすべて手持現金等の形において保留されているものでなく又預金積金の中には預金者の預金、借入金、或はこの運用によつて増大した資産の一部も包含されて居り、手持現金を自己資本とそうでないものに分けることは困難である。従つて株式等を取得した現在日における資産が負債より多くても必ずしも自己資本をもつて取得したものとは限らない訳である。

(2)  このような場合には「共通利子」と認められる預金利子等その元本の使途の明らかでないものの利子を基礎として「全資産」に対する「共通株式」の価格の占める割合で按分算出したものを「負債利子」として益金不算入の配当額より更に控除することが前記の事情から相当である。

共通利子×共通株式/全資産=配当より控除すべき負債利子

(3)  原告は日本興業銀行の株式及び全国信用金庫連合会の出資を有し、本件係争年度においてそれぞれ株式配当六千円剰余金配当十六万八千円の配当を受けた。そして、原告は一般銀行と変らない銀行業務を営む金融機関であり、係争年度における共通利子は五千三百九十九万五千六百十八円、共通株式は二百五万円、全資産は十五億五千三百九十五万三千五百十四円(内訳は別紙記載のとおり)であるから前記のようにして算出すれば配当から控除すべき負債の利子は七万一千二百三十一円となり、従つてこれを益金に算入したものである。

(二)  役員賞与の損金算入を否認したことについて。

被告は原告の専務理事である訴外松本次八に昭和三十年七月支給した賞与金十万円、及び同年十二月支給した賞与金十五万円の損金算入を否認したもので右処分は適法である。

松本次八は原告の専務理事であり、総務部長を兼任している者であるが、右専務理事は理事会の決議で決められた原告の代表機関であつてその業務執行の職責を有し、株式会社の代表取締役に相当する。故に、たとえ専務理事自ち或種の業務を執つたとしてもそれはやはり専務理事本来の職務を執行したに過ぎず、そこに使用人の地位を考える余地はない。松本次八において、専務理事のほかに総務部長の職名を有しているにしても事情は同じである。原告から支給された前記賞与は全額専務理事に対する役員賞与であつて、右賞与は法人の利益処分に属するので損金算入に含まれない。勿論、使用人兼務役員の観念から賞与の一部を使用人賞与として認める余地はあるが、右兼務役員は使用人としてその職務に従事して来たものの職能経験により役員に昇任したが、その職務内容が従来の職務の種類等とほぼ同様である者か、又は、個人の使用人であつた者が法人の設立に際し役員数の関係経験により役員となつた場合のように、名目上の役員となつたものをいうのである。しかも、これらの者が代表、専務、常務等の代表社員であるときには使用人兼務役員に該当しないのである。

原告訴訟代理人は被告の右主張に対して次のように述べた。

(一)  被告主張事実第一項の(1)及び(2)は否認する。第一項の(3)の主張事実は認めるが被告主張のような負債利子の算出方法は争う。第二項の主張事実のうち、原告が訴外松本次八に対し賞与金としてその主張の頃それぞれ十万円、十五万円を支給したことは認める。その余の事実は否認する。

(二)  原告のような金融機関においても自己資本と借入金等利子附負債との区別は会計学上判然となるのであり、しかも、原告においては当該株式並びに出資は自己資本によつて獲得したものであるから、負債の利子があるべきはずがなく、配当全額が益金に算入されてはならないのである。

企業においては会計学上負債と自己資本の区別があるのに対し、一方の預金が何れの方面に使われているかを厳密に区分していないのが普通である。そして利子附負債を流用して得たものであるか否かはその金融機関の負債(自己資本並びに預金)と資産の構成割合との会計学的に分析すれば判明する。即ち、金融機関は金を預り、このうち一定額の払戻準備金を貯蔵し、残金を貸すことを目的とするものであるから、預金の総額から貸出総額を控除した残金が払戻準備金となり、この準備金中に株式、出資等が含まれているならば、その株式出資等は預金負債を流用して取得したことになるが、そうでない株式出資等は自己資本をもつて取得したものというべく従つて負債利子があり得ない。

原告において日本興業銀行株式を取得した昭和二十三年十二月十三日当時の利付負債合計額(貯金積金勘定+借用金勘定)は八千六百二十五万二千四百四円四十四銭、貸出金(貸付金勘定)と払戻準備金(現金預金勘定+政府補償金+株式を除く有価証券)の合計額は八千八百六十万八百四十六円九十五銭であり、後者の合計額が前者を上廻つている。又全国信用組合連合会出資金百五十万円を取得したのは昭和二十五年四月二十七日、同出資金五十万円を取得したものは同二十六年一月二十三日であり、以上いずれの場合にあつても利付負債合計額よりも貸出金と払戻準備金の合計額が上廻つている。

また、これを自己資本からみても昭和二十三年十二月十三日当時自己資本(組合員勘定)は金二百四十五万二千三百九十三円二十九銭に対し、動産不動産勘定株式出資金出資勘定の合計額は金六十八万五千七百一円七十銭であつて、自己資本額を上廻る。前記信用組合連合会出資を取得した当時においても同様に比較した結果はやはり自己資本の方が大きいのである。

これらによつて株式や出資の取得は全く自己資本による取得であつて利付負債を流用したものでないことが明らかである。

また前述の払戻準備金として保有する金額のうちに株式出資等の金額は全然含まれていないことからみても、利付負債を流用していないことが明白である。

ところが、被告主張のように資金の区別が明らかでないから、共通利率をもつて計算した負債利子を控除するとすれば、一般事業会社においても区別が明らかでなければ、共通利率をもつて計算した負債利子を控除しなければならないことになり、その結果不当に法人税を軽減させることになり、課税不公平排除の目的で規定された法人税法の規定が覆される。

(三)  本件賞与は使用人賞与であり損金に算入すべきである。

即ち、右松本次八は原告の専務理事であると同時に、昭和二十七年十二月から総務部長の職務を担当して居り、係争賞与は総務部長としての使用人賞与であつて、理事会の決議により総務部長以下の使用人に対し一率に支給したものであり、他方、専務理事としての松本次八に対する役員賞与としては総代会の決議に基ずき剰余金処分として別途に五万円を支給している。

仮りに役員賞与であるとしても、法人の業務を執行する為の必要経費は損金であり、業務執行者に対する報酬も必要経費であると見られる。

原告の経費は会員から総代を選挙し、総代により選挙した理事で理事会を組織し、理事の中から理事長、専務理事を選任するものであり、企画経営は理事会が行い、常任理事は兼業を禁止され、理事会の決議に基いて処理する専従者である。松本次八は常任理事であり、いわば支配人たる存在なのである。右賞与は、労務に対する対価の一で過去の労務に対する報酬で、従業員の受ける賞与と何ら異るところはない。よつて本件賞与は損金に算入さるべきである。

(立証省略)

理由

(一)  次の事実については当事者間に争いがない。

訴外八幡税務署長は昭和三十二年二月二十七日、原告の昭和三十年四月一日より昭和三十一年三月三十一日までの事業年度の課税標準額を金二千七百七十六万五千百円と更正し、右通知は同年三月一日原告に到達した。右標準額は(1)雑収漏金三万七千百二十四円、(2)負債利息金七万千二百三十一円(3)役員賞与金二十五万円を益金に算入して所得金額と決定したものである。原告は前記更正決定で右訴外八幡税務署長が右(1)ないし(3)の金額を益金に算入して原告の所得金額を決定したのは違法不当であるとして昭和三十二年三月十一日被告福岡国税局長に対し右決定の審査の請求をした。よつて被告は同年八月二十二日、訴外八幡税務署長のなした原決定のうち前記(1)の雑収漏金三万七千百円のみを取消し、原告の昭和三十年度における課税標準額を金二千七百七十二万八千円とする旨の審査決定をした。右決定は同年八月二十四日頃原告に送達された。

(二)  被告は、原告のように銀行業務を行う金融機関である法人が株式等を取得した場合に自己資本によつたものであるか利子附負債によつたものであるか判然しないので、法人税法第九条の六第一項の利益配当等から控除すべきいわゆる「負債利子」は、「共通利子」と認められる預金利子等その元本の使途の明らかでないものの利子を基礎として「全資産」に対する「共通株式」の価格の占める割合で按分算出して前記利益配当等から控除すべきであると主張し、原告は原告金庫のような金融機関においても株式等を自己資本で買つたか利子附負債で買つたかの区別はその金融機関の負債と資産の構成割合を会計学的に分析すれば判然となるのであり、右方法によれば原告は当該株式並びに出資を自己資本によつて取得したことが認められるから、「負債利子」があるべきはずがなく、このような場合に被告主張のような「負債利子」の算定方式を適用することは違法不当であると抗争するので、先ずこの点について判断する。

原告が一般銀行と変らない銀行業務を営む金融機関であることは当事者間に争がない。証人井津川弘義の証言及び原告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二、第七、第八各号証(いずれも日計表)と右証言及び尋問の結果によれば、原告金庫において日本興業銀行株式を取得した昭和二十三年十二月十三日及び全国信用組合連合会出資金百五十万円を取得した昭和二十五年四月二十七日、同出資金五十万円を取得した昭和二十六年一月二十三日の各当日における貸出金総額(貸付金勘定)と払戻準備金総額(現金預金勘定、政府補償勘定、株式を除く有価証券勘定の合計額)は預金総額(貯金積金勘定と借用金勘定の合計額)より上廻つていること、また右取得当日の自己資本(組合員勘定)は動産、不動産勘定、株式出資金勘定の合計額より上廻つていることをいずれも認めることができる。

しかしながら、本来、日計表なるものは、作成当日会計帳簿締切後の企業の資産、負債、資本等の状態、いわゆる財産の静的状態、その横断面を表示する機能を有するものでしかなく、その資産勘定として当日まで負債あるいは自己資本を投入し更には利潤を繰入れて蓄積して来た各資産の現在有高を示すものでしかないから、数ケ月にわたる日計表を綜合した上で各勘定の動きを詳細に辿つてゆく方法による場合はともかく、単に株式取得当日の日計表上資産と負債、あるいは資本と動産不動産とを比較するような方法のみによつて当該株式を自己資本で買つたのか利子附負債で買つたのかというような動的過程を確かめようとすることは的を失したものというべきであり、しかも証人市丸吉左衛門の証言によれば金融機関においては現金の出入がはげしく、手元に残つている現金も自己資本であるか借入金であるか判然とせず両者が混こうした状態で現金勘定として存在しているものと認められるから、原告のごとき金融機関の場合にあつては猶更である。当該株式等を利子附負債をもつて購入したのではなくして自己資本で買入れたものと断定することは、補助帳簿たる伝票、金銭出納簿などの記載を順を追つて検索し相手方勘定の動きを確認することが可能な場合の外は一般になしえないことである。

右認定に反する証人井津川弘義の証言及び原告代表者尋問の結果はいずれも同人等の単なる判断に過ぎないから、前示認定の妨げにはならない。

結局、原告主張のように、株式等取得当日の日計表において、貸出金総額及び払戻準備金総額が預金総額を上廻つており、また自己資本が動産不動産勘定、株式出資金出資勘定の合計額を上廻つているとの事実のみをもつて、直ちに本件株式等の取得は自己資本によつたものであると断定することはできない。

他方、証人政栄政明の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証の二、成立について争いのない乙第一号証の一、乙第五号証と右証人及び前掲市丸吉左衛門の各証言によれば、自己資本と負債とが渾然一体化して現金勘定として存在している実状のもとにある金融機関が株式等を取得したときはそれを果して自己資本で買つたものか、或はまた利附負債で買つたものか、明確に区別出来ないことが多く、そのため「負債利子」の控除の点については昭和二十五年頃から税務当局と金融機関との間に疑義を生ずることが多かつたこと、そこで当時全国銀行協会の要望もあり、右協会が作成、提案した被告主張のような「負債利子」の按分計算方式を国税庁においても一応妥当な方式として容認し、昭和二十五年以降は信用金庫をも含め全国的規模で右方式に則り負債利子を控除していることがいずれも認められる。右認定に反する証拠はない。

本件のような金融機関における株式等の取得については、前記認定のとおり、金融機関の特殊性から、右株式を自己資本で買つたものかあるいはまた負債で買つたものかは経理上峻別できない関係にあるのであるから、銀行側の希望により作成された前記按分計算方式によつて「負債利子」と理論上認定できる数額を算出し、これを配当等より控除する方法によることが相当であり、右方式が「共通利子」中日銀借入金、コールマネー等株式取得のための負債利子でないことの明らかな利子を除き、「共通株式」中控除額を不当に増大させる無配株式を除外し、「全資産」中支払承諾、再割引手形等名目的対照勘定を除外するなど合理的な計算方式と認められ、かつ昭和三十三年政令第七十号によつて法人税法施行規則第十八条の五但書に、当該株式等取得に要した負債利子額が明らかでない場合には右計算方式による旨明記されたこと等に徴しても妥当な方法であるといえる。

原告は被告主張の算定方式を用いれば自己資本と負債との区別の明らかでない一般会社にあつては不当に法人税を軽減させることとなり法人税法第九条の六の規定の趣旨が覆されると主張するが、右は原告独自の理論であつて到底採用することができない。

とすれば被告が本件株式及び出資の取得について、右按分計算方式により算出した負債利子金七万千二百三十一円を益金に算入した行為は適法であり、この点に関する原告の主張は理由がない。

(三)  次に、被告は、原告の専務理事である訴外松本次八に対する本件夏季及び年末の手当は役員賞与であり、税務会計上損金に算入すべきでなく、利益処分金に算入し、課税の対象となすべきであると主張するのに対し、原告は右訴外人は原告の専務理事の職務を行うと同時に総務部長という使用人としての職務に従事しており、同人に対する本件賞与は使用人兼務役員に対する使用人賞与として支給したものであり、同人に対する役員賞与が経理上区分して別途支払がなされている事実からしても、本件賞与は当然損金処分となすべきものであると主張するのでこの点について判断する。

訴外松本次八は原告の専務理事であると同時に昭和二十七年十二月以降は総務部長の地位にあるもので、原告は同訴外人に対し昭和三十年七月に十万円を、同年十二月に十五万円をいずれも使用人賞与の名義のもとにそれぞれ支給したほか、役員賞与名義のもとに別途に五万円を支給したことは当事者間に争がない。

一般に会社の役員が役員固有の職務のほか会社の一般事務を司つていることから、これをもつて直ちにいわゆる使用人兼務役員となし、これらの者に対して支給せられた報酬以外の手当を一般従業員の賞与と同様に税務会計上損金処分となすべきものと認むべきか否かはにわかに断ぜられないところであつて、当該役員の会社における実質上の地位役割、当該手当の金額、その性質その他の諸事情を勘案し具体的事情に即して決せられるべきものである。

成立について争いのない甲第一号証および乙第四号証と原告代表者尋問の結果の一部を綜合すると、原告はその代表理事として理事長、専務理事各一人、常務理事二人をおくことができ、上記各理事は理事会の議決により理事のうちから選任し各自金庫を代表するものであること、特に専務理事は理事長を補佐して業務を執行する職務を有し、理事長と共に当該金庫経営の中枢的立場にあり、理事長に事故があるときは第一順位の職務代行者であること、訴外松本次八は昭和二十六年十月原告が八幡市信用組合から組織変更して新発足して以来、一貫して専務理事の地位にあり、その後重任を重ねて今日に至つていること、当時右訴外人の給料は月額五万円で高給の部に属し、本件賞与が特に給料の補給的実質を持つものでないことが認められる。他に右認定を左右するに足る証拠はない。以上の事実によれば訴外松本次八は設立当初よりの原告金庫の首脳的経営者の一人であり、原告金庫運営に関し実権を持つているものというべく、たとえ、同人が総務部関係の一般事務に従事していたとしても、それは自ら業務執行担当の役員として具体的、個別的な事務処理をしているものであつて、他の業務執行担当役員の指揮の下にその職務に従事しているものでないから、右訴外人の職務は原告の業務執行自体と解するのが相当である。もつとも成立に争のない甲第三号証、証人井津川弘義、松本次八の各証言により成立の認められる甲第四ないし六号証の各一、二、と右各証言及び原告代表者尋問の結果によれば、原告は本件賞与金をいずれも使用人賞与として理事会の決議を経て支給し、他方役員賞与金は別途に利益金処分として総代会の承認を得て支給しており、その間経理上明確に区分されて処理されていたことを認めることができるが、役員賞与金と使用人賞与とが経理上分別計算されている一事をもつて直ちに右使用人賞与を本来の使用人賞与と解すべきでないことはいうまでもなく、当該賞与の実態を勘案して右賞与が使用人賞与として妥当なものであると認められたときに始めて使用人賞与として損金算入が認められるものといわなくてはならない。そうでなければ、原告代表者尋問の結果によつて認められるように、賞与金の支給に関し定款の規定もしくは総会の決議による一定のわくが定められておらず専ら理事会の自由な裁量に任せられている原告のごとき会社にあつては、役員が意識的に会計帳簿を操作することによつて、本来役員賞与として支給さるべきものを使用人賞与の名目のもとに区分経理して支給し、その結果益金に算入さるべき金額を損金処分として処理することによつて、容易に法人税逋脱の目的を達することができることになるからである。しかして訴外松本次八の職務が原告の業務執行自体であると解すべきこと前示認定のとおりであるから、たとえ右のように分別計算をしていることが認められても、これを以て本件賞与の本質が使用人賞与であるとは認め難い。

以上の認定にかゝる諸事情を考慮すると、訴外松本次八に支給された本件賞与はいわゆる使用人兼務役員の使用人賞与ではなく役員賞与であると解するのが相当である。故にこの点に関する原告の主張は理由がない。

原告は、本件賞与が仮りに役員賞与であるとしても、法人の業務を執行するための必要経費は損金であり、従つて業務執行者に対する報酬も必要経費とみるべきであると主張するのでこの点について判断する。

そもそも役員賞与とは、企業経営を委任された企業経営者が委任の本旨に従い企業経営に専念した結果、相当以上の企業利潤を獲得することができたとみられるとき、その労を多として予め定められた報酬とは別に右のような巧みな企業経営によつてあげ得た業績に対する報酬として、会社利益を勘案した上で利益金より支給されるものであつて、いわゆる益金処分にあたり必要経費たる性質を持つものでないことは会計学上確立された鉄則である。そして、このことはかような経済的生活現象の上に樹立せられている税務会計制度においても疑う余地のない明白な原則として確認され実施されて来ているところである。会社役員は当該企業と密接、不可分、表裏一体の関係にあるのであり、会社の興廃は即ち自らの生死にかゝわることであるから、企業経営にはどれほどの専心と、労務を提供しても、各年度末に右企業が利潤をみることができず赤字に終るならば、会社に対しては賞与として一銭たりとも請求し得ない立場におかれる筋合のものである。言葉をかえていえば、一般使用人賞与は提供された労務に対する報酬であるのに対し、役員賞与は獲得された利潤に対する報賞なのである。両者はその本質を異にし、前者は提供された労働力の価値が商品の価値に転化されたものとして総損金の一部とみなされ必要経費に算入されるのに対し、後者は利益をあげた功労に報いるものとして営業活動から得られた価値の増加である総益金からの控除部分とみなされ利益処分に加えられるのである。両者を同一視して役員賞与もまた必要経費なりとする原告の主張は独自の見解であつて採用することはできない。

もつとも一般に会社が、定款又は株主総会の決議(商法第二百六十九条)によつて予め定められた報酬総額の範囲内でその役員に対して支払う報酬は、会計学上必要経費とみなされ、(そしてこの報酬こそが、原告の主張する役員が法人の業務を執行するための必要経費とみなされる部分である)これは法人課税上も又損金算入が認められているが、これは右報酬が役員の職務執行の対価として法律上会社にその支払が義務づけられているからであり、株主は右の手続によつて定められた報酬額についてはその事業の遂行に必要な経費であり、利益として株主に帰属すべきものは収入金額から右金額を控除した残額であることを当然認容しているからである。従つて、これに反し法律上その支払が全く義務づけられておらず、株主に帰属すべき利益の中から支給するものでその支給するか否かも株主の自由裁量にかゝつている役員賞与とはその性格を本質的に異にし、役員報酬に対する取扱をそのまゝ役員賞与について類推処理することは許されない。

結局この点に関する原告の主張も理由がなく、訴外松本次八に対する本件賞与金二十五万円の損金算入を否認した被告の処置は適法である。

以上のとおりであるから負債利息金七万千二百三十一円、役員賞与金二十五万円を益金に算入して原告の所得金額とした本件審査決定は相当であつて、原告の本訴請求は理由がない。

よつてその請求を棄却することゝし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鍛冶四郎 桑原宗朝 杉島広利)

(別紙) 共通利子等の内訳

共通利子

預金利息      29,772,073円

備金繰入      13,955,767円

借用金利息      266,778円

計         53,995,618円

共通株式取得価額

日本興業銀行      50,000円

全国信用組合連合会 2,000,000円

全資産       2,050,000円

預金預け金    385,647,000円

コールローン    25,350,000円

有価証券      79,048,000円

貸出金     1,061,343,000円

出資勘定      2,000,000円

仮払金        565,514円

計       1,553,953,514円

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